2015年6月18日木曜日

茶馬古道を行く~雲南からチベットへ

  「アジアの秘境 ゆったり紀行」 二村忍 七つ森書房 2012年

 中国からチベットのラサに至るには古来より三つのルートがあった。第一は青海省の西寧からタンラー山脈を越えてゆくルート。現在の西蔵鉄道はこのルートに沿っている。第二は四川省の成都から西行して川蔵公路をたどるルート。そして第三が雲南省の北西部から川蔵公路・南路を通ってラサに至るルートである。雲南の北西部はチベットの東南部に接するが、金沙江(長江)、瀾滄江(メコン川)、怒江(サルウィン川)の三江が至近の間を南北に並流し、急峻な横断山脈が東西交通を阻害してきた。然し昔から茶馬古道として使用されたように、距離は最も短い。それ故中国共産党はチベット独立運動に干渉するため、この地域に川蔵公路・南路(国道318号)、滇蔵公路(国道214号)を整備してきた。本書第2章「雲南・チベット 茶馬古道・ラサへの道」は、このルートをツアーガイドとして旅行した著者の記録である。
 雲南西北部からチベットに入る旅の起点は昆明である。昆明から大理を経由し麗江に至る。麗江はかつての木氏(ナシ族)王国の都である。麗江から国道214号線をシャングリラを経て徳欽に到着する。(麗江→シャングリラ180キロ、シャングリラ→徳欽190キロ)この当たりは横断山脈の間を金沙江、瀾滄江が170キロにわたって並流する「三江併流群」として世界遺産に登録されている。ここの標高差は760米の怒江峡谷から梅里雪山[6740米)まで6000米にも及ぶ。徳欽はかつて阿敦子と呼ばれた辺境の寒村であったが、茶馬古道の重要な中継地でもあった。住民の多くはチベット族である。徳欽から塩井(ツァカロ)は100キロ。ここからチベット自治区に入る。すなわちチベット自治区芒康(マルカム)県ツァカロである。ここではメコン川の標高は2450米。町は東岸の300米ほど高い段丘上にある。ツァカロの入り口には検問所がある。とくに2008年のラサ騒乱以降は、外国人のチベット入境を厳重に取り締まるようになった。個人客も旅行会社通じて許可証を得なければチベットに入境できない。団体客でさえ、陸路でのチベット入域は厳しく、旅行許可証以外にも軍や公安の許可証を取得しなければならない。著者によれば本書の旅を催行した09年を最後として、10年以降はここからの入域は禁止されているという。塩井にはメコン川の両岸に沿って塩田がある。川に沿った井戸には、かつて海底であったための塩分が地下水に混じって出てくる。ここの塩は「桃花塩」と呼ばれ雲南では高値で取引される。
 塩井を出て112キロで県庁所在地のマルカム(芒康)にいたる。標高は3870米。政庁の建物やミニスーパー、食堂、招待所がある。高度は一気に上がり、5000米級の峠を越える。そして怒江峡谷をぬければ八宿に着く。ラサまでの経路は以下である。八宿(パシュ)→然鳥(ラウォ)90キロ→波密(ポメ)130キロ→八一(パーイー)240キロ→ラサ400キロ
ラウォからポメのあたりはチベットのアルプスと称されるカンリガルポ山群や氷河がある。2009年11月神戸大・中国地質大(武漢)の合同登山隊が標高6805米のロプチン峰(KG-2峰の登頂に成功している。
 現在外国人のチベット自治区への旅行は、①旅行会社の募集するツアーへの参加②旅行会社へのツアーの手配依頼のどちらかでなければならないと厳格に措置されている。さらに自治区内の全行程をガイドとともに、車(バスは利用不可)で行動しなければならない。また自治区への旅行には「TTBパーミット」と呼ばれる「入域許可証」が必要になる。このほかラサ以外の場所を訪問するには「外国人旅行証」も必要になる。なお本書では2010年以降塩井からの入域は禁止されていると著者は述べているが、現在どうかはわからない。インターネットなどで、中国人になりすましてのこの地区からの入境が報告されているが、これは危ない。