2020年6月14日日曜日

全共闘世代の終焉

   「続・全共闘白書」 続・全共闘白書編集実行委員会編 情況出版 2019年

 東大安田講堂攻防戦から50年目の昨年末に本書が刊行された。前回の「白書」刊行から25年である。編集後記によれば、前回のアンケート回答者526名にアンケートを送付したところ、半数以上が「宛先人不明」で未着、残りも本人死去などの連絡が多かったという。それでも「友達の輪」で回答者を増やし、枠を広げる(中・高校全共闘)などしてのべ96大学(短大、付属専門学校含む)、22高校、1中学から467名の回答を得た。学校数は前回の86より増えたが回答者数は減った。
 アンケート項目(前回73、今回75)については「白書」と「続」では異動がある。
「白書」にあった「活動家の沈黙」や「子供が学生運動に参加したら」「会社の仕事で倫理に反することをしたか」などは「続」にはない。追加されたものとして「介護が必要になった場合や認知症になった時」、「就活の準備」など深刻のものがある。また「インターネット」、「民主党政権の評価」、「平成天皇の評価」などあり世相の推移を映している。また参加形態として「活動家」(60.1%)、「一般学生」(35.0%)という区分を設けている。なお回答者のプロフィールは以下である。男性89.7%、女性10.3%である。ちなみに当時の大学進学率は65年(男20.7%女4.6%)66年(男18.7%女4.5%)67年(男20.5%女4.9%)68年(男22.0%女5.2%)で、女性は進学率も運動参加率も低かった。
前回との比較 括弧内は前回)「参加理由」として「自らの信念で」57,2%(51.1%)、「社会正義から」18.4%(22.6%)。「参加したことをどう思うか」には「誇りに思う」69.5%(56.3%)、「懐かしい」12.8%(15.8%)。「あの時代に戻れたらまた参加するか」に「する」67.0%(55.3%)、「わからない」22.0%(21.5%)、「しない」2.2%(4.8%)。「革命・社会変革を信じたか?」に「信じていた」48.7%(35.7%)、「信じていなかった」33.2%(41.4%)。「運動は人生を変えたか」に「変えた」80.3%(69.8%)、「変えなかった」15.9%(16.2%)。「憲法はどうすべきか」には「堅持」66.8%(51.3%)。「日米安保をどうする」は「廃棄」62.6%(58・0%)。老いて確信はますます強まるということか。ただし「自衛隊」については「違憲」68.6%(81.9%)、「合憲」17.7%(4.9%)と微妙に揺れる。
 然しアンケートの送付には叛旗派の神津陽がいうように疑問もある。神津曰く。25年前の白書の時には案内はなかった。今回は来たが、呼びかけ人には山本義隆や秋田明大などの著名人はなく、全共闘時に何をしていたか分からない者もいる。それに党派関係者
が揃っていないとも。明らかに選別にバイアスがかかっている。安田講堂攻防戦と比肩される5号別館死守闘争を闘った関学全共闘関係者が皆無なのも不思議である。関学の項目で収録されている2名は6項目闘争もしらない71年入学生である。掲載のほとんどは横国大全共闘議長(中核派)、関東学院大全共闘議長(マル戦派→赤軍派)など例外はあるが、8派の下部活動家、ノンセクトである。それはかつての戦友会が下士官・兵が大半で少数の下級将校で構成されていたのに似ている。
 もう一つ気になるのが上記アンケート項目の第一回答がすべて増加していることである。老いてますます盛んというより、脳軟化症ならぬ「脳硬化症」に陥いっているのかと危惧される。これは総括作業をせずに日々の生活を送った挙句、かつての自己を美化しようとする欲求がますます強まるからである。全共闘世代はすでに後期高齢者を目前にしている。すでに層としては死滅に瀕しているというべきだろう。