2021年5月31日月曜日

「地球の歩き方 東京2021~22」 ダイヤモンド・ビッグ社 2020年

 「地球の歩き方 東京」の売れ行きが好調だと言う。「歩き方」は1979年にそれぞれアメリカ編、ヨーロッパ編として創刊された。初めて知らない国や都市を訪ねる旅行者のために、客観的な視点で情報を提供するという編集方針はその後も変わらず一貫している。  本書でも「旅の準備と技術」のコーナーは設けられている。例えば「習慣とマナー」では銭湯の入り方が入念に説明されている。あたかも「トルコ」編のハマムの記述を彷彿とさせる。さらに国の登録有形文化財「稲荷湯」や昭和情緒が残る「大黒湯」、壁面に富岳三十六景」が描かれた「荒井湯」など7件の銭湯が紹介される充実ぶりである。また「文豪たちが愛した名店と味」も必見である。森鴎外の「雁」に登場する「伊豆栄 本店」の鰻や、、芥川龍之介が愛した「浅野屋」の天ぷらそば、三島由紀夫が最後の晩餐に選んだ「鳥割烹 末げん」の鳥鍋などが紹介される。見逃せないのは東京に唯一残る路面電車である「東京さくらトラム」(都電荒川線)の案内である。沿線には、昔ながらの商店街や名所旧跡が多い。一日乗車券を使って散策すれば、昭和の下町情緒が甦る。かつて都電は40路線もあったのである。これらを読めば東京はまるで未知の街のような相貌をもって現れてくる。それは明治の初めに禁断の日本を旅したイザベラバードの紀行を読むかのようでもある。  東京に住んでいる人にもそうでない人にも本書は有益である。とくに昨今のコロナ下で不自由な「ステイホーム」を強いられている人々には、本書を読むことはささやかな福音である。