名古屋大学出版会 2013年
「東方見聞録」として知られる「世界の記述」には140とも200ともいわれる写本がある。その成立の経緯はマルコポーロの生涯と同様に謎に満ちている。マルコの冒険の情報をもとに、全体の構想を練り、創作も交えて一遍の物語に仕立て上げたのは、ピーサの騎士道物語の作家ルスティケッロであった。この意味で「世界の記述」は二人の共作であった。この書物は世に広く流布したため、イタリア各地の言葉のみならずラテン語やフランス語にも訳され、それゆえ大きく変容することになる。そして多数の写本が作られた。
それらの写本にもとづくテキストは次の7グループに大別できる。すなわち①フランクーイタリア語版(F)、②フランス語グレゴワール版(FG)、③トスカナ語版(TA)、④
ヴェネット語版(VA),⑤ピピヌスのラテン語版(P),⑥ラテン語セラダ版(Z)、⑦ラムジオのイタリア語版(R)である。これらは内容によって①から⑤のF系のAグループと⑥~⑦のZ系のBグループに大別できる。BにはAにない多数の記事が含まれるが、Aの記事はすべてBに含まれる。Fは内容的には全114章からなりAグループの中では最も完本である。1824年パリ地理学協会が刊行している。Pは写本の中で最も多く残っている。1485年アントワープで刊行され、コロンブスが航海に使用した。Zは1932年デーヴィッド卿によってトレド大聖堂古文書庫で発見されたセラダ手稿。35年印刷、38年出版。Rは1559年ヴェネツィアで出版されたラムージォのイタリア語集成訳。主底本はPで、ギジ写本なども用いられている。
主要テキストの関係は次のように想定される。原資料としてのO(マルコの話、メモ・ノート類、ルスティケロのもとにあった情報など)。ここから二人によって編まれた第一次祖本(O1)。よりO1に近い第2次祖本(O2)によってZ(ゼラダ写本)やR(P+ギジ写本)が成立した。またやや省略された第2次祖本の異本(O3→O4)からF系の写本が誕生した。1298年ジェノヴァで作成されたオリジナル(O1)にはZやRに伝わるものを含めすべての記事が揃っていた。言語的にはFが最も古いが、転写・翻訳の過程で省略・改変がほどこされていった。
なお「見聞録」の邦訳には現在入手できるものとして以下のようなものがある。
愛宕松男訳註(東方見聞録1.2 平凡社 1970、71年)ベネディットのイタリア語集成版(フランス語原典fr.1116を基礎にして、他の写本・刊本から記事を補った集成本のイタリア語訳)のリッチによる英訳本からの翻訳。中国史料による註が豊富。
長澤和俊訳(東方見聞録 小学館 1996年)や青木和夫訳(東方見聞録 校倉書房
1960年)もリッチ英訳本からの邦訳である。
月村辰雄・久保田勝一訳(マルコポーロ東方見聞録 岩波書店 2002年)は初期テキストの一つ(中世フランス語fr.2810)から直接日本語訳したもの。
それらに比して本書は代表的テキスト3種(F,R,Z)を全訳し対比した労作で、極めて「学術的価値は高い」(海老原哲男)。マルコは記述する記事の多弁に比し自らの旅程を語ることは極めて少ない。完全対校訳によって中央アジアの旅程(とくにパミール横断ルート)を正確に推測することが可能になった。あわせて写本成立の解明を簡潔に解説したことなど本書の意義といえる。
主要テキストの関係は次のように想定される。原資料としてのO(マルコの話、メモ・ノート類、ルスティケロのもとにあった情報など)。ここから二人によって編まれた第一次祖本(O1)。よりO1に近い第2次祖本(O2)によってZ(ゼラダ写本)やR(P+ギジ写本)が成立した。またやや省略された第2次祖本の異本(O3→O4)からF系の写本が誕生した。1298年ジェノヴァで作成されたオリジナル(O1)にはZやRに伝わるものを含めすべての記事が揃っていた。言語的にはFが最も古いが、転写・翻訳の過程で省略・改変がほどこされていった。
なお「見聞録」の邦訳には現在入手できるものとして以下のようなものがある。
愛宕松男訳註(東方見聞録1.2 平凡社 1970、71年)ベネディットのイタリア語集成版(フランス語原典fr.1116を基礎にして、他の写本・刊本から記事を補った集成本のイタリア語訳)のリッチによる英訳本からの翻訳。中国史料による註が豊富。
長澤和俊訳(東方見聞録 小学館 1996年)や青木和夫訳(東方見聞録 校倉書房
1960年)もリッチ英訳本からの邦訳である。
月村辰雄・久保田勝一訳(マルコポーロ東方見聞録 岩波書店 2002年)は初期テキストの一つ(中世フランス語fr.2810)から直接日本語訳したもの。
それらに比して本書は代表的テキスト3種(F,R,Z)を全訳し対比した労作で、極めて「学術的価値は高い」(海老原哲男)。マルコは記述する記事の多弁に比し自らの旅程を語ることは極めて少ない。完全対校訳によって中央アジアの旅程(とくにパミール横断ルート)を正確に推測することが可能になった。あわせて写本成立の解明を簡潔に解説したことなど本書の意義といえる。
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