2016年9月26日月曜日

大谷コレクションの現況

     「西域~流砂に響く仏教の調べ」 能仁正顕編 自照社出版 2011年

  本書は「龍谷大学仏教学特別講座」の第2回目講義(2008年秋)を編集載録したものである。とくに大谷コレクションの最新の現状(特に国内)を報告した三谷真澄「大谷コレクションと敦煌資料」は注目に値する。その他トルファン出土写本の同定作業の紹介(同「トルファン資料の意義」)や、ベゼクリク第15石窟壁画の復元(入澤豪「壁画復元」)は興味深い。後者は2011年開設された「龍谷ミュージアム」にデジタル復元された壁画として結実している。
(大谷コレクションの現状)
 大谷探検隊将来の所謂「大谷コレクション」は中国、韓国、日本の三カ国に分散保管されている。
その経緯については既述した(「みたび大谷探検隊について」)。すなわち藤枝晃が分類したように(A-1)中国旅順博物館所蔵、(A-2)同北京図書館所蔵、(B)韓国中央博物館所蔵、(C-1)東京国立博物館所蔵、(C-2)京都国立博物館所蔵、(D)龍谷大学所蔵、(E)その他個人・機関所蔵である。本書はD,Eについて、とくにDについてはその後収蔵されたものも含め詳しく紹介している。
(龍谷大学所蔵品)
 龍谷大学所蔵品の内訳は戦後大谷家から寄与された大谷光瑞の遺品木箱2箱(D-1)が中心である。その他(D-2)探検隊将来敦煌写経若干巻(西域史料501~537)、(D-3)橘瑞超氏贈敦煌写経6巻、(D-4)吉川小一郎氏寄贈分(写真原版「流沙残闕」さらに1988年遺族より探検中に使用したカメラ、三脚、鞄、旅装等が寄託)、(D-5)堀賢雄、渡辺哲信の日記(「新西域記」未収分)である。なお商人より購入したNo539以降のものには探検隊将来品とはまぎらわしいものもある。
これ以降寄与及び購入されたものには以下がある。(D-6)野村栄三郎師将来仏頭(1996年)、(D-7)青木文教師将来チベット文化資料(2000年、2002年)、(D-8)堀賢雄師将来資料(2002年)、(D-9)藤谷晃師将来資料(2004年)などである。
(個人・機関の手にあるもの)
 個人・機関については次のような所に収蔵されている。すなわち出光美術館、MOA美術館、シルクロード研究所、天理大学付属図書館、東京大学東洋研究所などである。これらの出所は光瑞が発掘品の一部を隊員や他の人に現物給与のような形で分け与えたものや、二楽荘で古写本の極小断片を台紙に貼って販売したものである。
(トルファン資料の同定)
 旅順博物館には2万6千点の写本の断片が収蔵されている。そのほとんどは漢字資料だが、それは「藍冊」に保管されている。2006年その中から1429点を精選した図録が出版された。その過程で、296年書写とされる「諸仏要集経」写本の離れが見つかった。「西域考古図譜」に収められているこの写本本体は現在行方不明である。「藍冊」にランダムに貼られた写本断片の一つ(LM20_1456_16_15)が同じ写本の離れであることが分かった。このような同定作業はコンピューターの検索によって龍谷大学と旅順博物館との間で行われている。
(ベゼクリク石窟壁画の復元)
 ベゼクリク第15石窟の壁画はドイツ隊、ロシア隊(エルミタージュ博物館所蔵)、イギリス隊(インド国立博物館所蔵)、大谷探検隊(韓国中央博物館所蔵)が持ち帰った。ドイツ隊が持ち帰った部分はわずかだが第二次大戦で焼失した。これらを集めて復元し三次元コンピュターグラフィクで再現したものが、2005年2月NHK「新シルクロード第2集 トルファン灼熱の大画廊」として放送された。
 かつて大谷光瑞の没後、木箱2箱の遺品(仏典写本など)が龍谷大学に寄託され、その研究のために西域文化研究会が発足した。研究の集大成として「西域文化研究」全6巻が刊行された。本書の刊行は新たな「西域文化研究」の可能性を示唆するものである。

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